スマート農業は何を守っているのか

スマート農業は何を守っているのか

こんにちは。全国で講演、セミナー研修など行っている

農業講演家の山下弘幸(やましたひろゆき)です。

農業歴35年。親元就農後、個人、法人の農業経営を経て

農業コンサルタントに転身し、

現在、新規農業者、若手農業者、企業農業参入支援などをしています。

具体的には、稼げる農業を実現する

”1歩先行く農業者”のオンラインコミュニティ

「農業ビジネススクール(農ビジ会)」を主催し

全国200名の農業者と毎月勉強会や情報交流を行っています。

また、定期的に更新しているyoutube(農テラスチャンネル)では

全国の農業者へ「農業経営・農業ビジネス」の最新情報をお届けしています。

 

さて、今回の山下弘幸農ビジコラムテーマは

「スマート農業は何を守っているのか?」

日本の農業において、「何を守るべきか」というテーマは非常に複雑です。

今回は、国の政策や地方の現実、さらには食と農業の関係について掘り下げて考えます。

 

ポイントは次の4つです

・食を守る

・農地を守る

・農家を守る

・農業を守る

 

食を守るための技術革新

スマート農業やロボット・AI化は一見「農家を守る」ための技術のように見えますが、

実際には国民の「食を守る」ために食の生産活動を行う「農力を代替する」ための手段として機能しています。先端技術が進むことで、農家の役割が減少し、食の国内生産持続継続が危ぶまれる中で

不可欠な分野だと位置づけられています。

ただ、これは決して「農家」にとってメリットだけではありません。

理由は2つあると思います。

なぜなら、先進技術を取り入れればコスト高となり経営を圧迫する恐れがあるから。

先進技術の導入は短期的にはコストがかかるが、長期的に見ると労働力の代替が進む可能性があるのです。ただ、高齢農家は長期的視点が持てなくなっているのが現状です。

そしてもう一つはロボット機械化の進化は農家の仕事を奪うことになるからです。

一方で地方自治体が掲げる課題にスマート農業は不可欠だという論議が主流です。

これは人がいないならロボットに頼ろうという安易な視点のような気がします。

ただ、ここにも地方と国とギャップがあるのは否めません。

 

地方自治体が守るものと国の政策のギャップ

国は「食を守る」「国民を守る」「農地を守る」といった大局的な目標を掲げていますが、地方自治体にとっては、人口流出や少子高齢化の中で「農家を守る」ことが優先課題となっています。地方にとっては、農家が地域社会の最後の砦であり、農家がいなくなると地域そのものが崩壊するリスクがあります。ここに、国と地方の間にある力加減の違いが生じています。最近、農山漁村発イノベーション推進事業に関わらせていただく機会が多くなり、

地域の耕作放棄地問題、担い手不足問題、人口流出問題、少子高齢化に伴う空き家問題などに取り組んでいます。どの地域も抱えている問題は類似していて

対局でとらえれば「ひと」の問題にたどり着きます。

「ひと」が暮らしてこそ地域は成り立ち、「ひと」が暮らす上で不可欠な資本(カネ)を

生み出すことが重要なのに、そこに「知恵」がないのが実情のようです。

同様に地方の基盤となる農地は防災上、維持が不可欠。

国が掲げる「食」だけの問題ではない切実な課題も抱えているのです。

 

 

輸入戦略がもたらした農業の弱体化

1980年代、日本は国内自給を強化する戦略から、安価な食料や農産物を輸入する戦略へとシフトしました。これにより、国民にとっては安価で豊富な食料が手に入る一方で、国内の農業は弱体化し、「農業を守る」という視点がより複雑化しました。特に、農業が競争力を失い、地方の小規模農家が苦境に立たされています。

しかし、小規模農家や兼業農家を支援する相互扶助精神の「農協」のおかげで「農業を守る」

という課題が解決されてきました。しかし、昨今、“農家を守り、その農家が農地を守る。これこそが農業をまもることだ”という大義が崩れてきています。農協と農水省とで進めてきた農業政策が「今の状態」を作り上げてきたことが露呈し始めたのです。

これは特定の農家だけが受けられる補助金制度の問題や、農家と農協の間で生じた軋轢などがそれを表しています。

農家の数は減り、自給率は上がらず、農地は耕作放棄されている現状は間違いなく過去の政策の失敗です。

本来なら、護送船団方式的な弱者に合わせて進みましょう。みな平等に均等にやりましょうといった共産主義的な農業政策から強いモノが勝つ弱肉強食世界の資本主義的な自由競争原理を取り入れ、外部からの人材や知恵を取り入れて改めて新しい農業へシフトすべきだと思っています。

ただ、これらを代表する「企業農業参入の規制緩和」にしてもまだまだ「壁」は厚く、農地の民間開放へは至っていません。

 

理由は簡単です。

農地を民間に自由開放すればチカラのない農家がどんどんつぶれるからです。

それを一気に進めれば、おそらく地方自治体は混乱することになるでしょう。

 

今後何を守るべきか?

現代の日本農業において、「何を守るべきか?」という問いは、単純なものではありません。

私の考えを述べさせていただくと、

 

食料自給率を高めるのには400万haの農地だけでは限界があると思います。

ですから食の輸入は仕方ないと思います。ただ、あきらめるのではなく、

生産性の高い農業パーソン(農業経営者)に資源(ヒトモノカネ)を集中させるべきだと

思います。もちろんそうなれば弱い農業者は困窮、廃業するかもしれません。

 

そう、痛みを伴うのです。

しかしながら国民の食を守る上で海外からの輸入に依存したままでは不安定すぎます。

卓越した食を守る「脳業者」、「食業者」を各地域に誕生させ、

その核となるリーディングパーソン、リーディングカンパニーが地域の農家や

農村の農地を維持するための施策を自治体と共に策定し実行する。

そこに国の予算が適切に配分される。

その予算を活用して合理的な生産性の高い食生産技術として緻密農業や自動農業などの

テクノロジーを導入させる。もちろんここには植物工場的な生産工場も含まれます。

これこそがスマート農業の本質のような気がします。

 

最後に地方自治体が抱える課題として

耕作放棄地問題、担い手不足問題、人口流出問題、少子高齢化に伴う空き家問題も

核となるリーディングパーソン、リーディングカンパニーの存在ありきだと思います。

 

私の夢は全国1718市町村にこのような次世代農業者を輩出することです。

そして、そのような人材を育成することが私の「使命(ミッション)」なのです。