農家が減らない仕組みをどう作るか

農家が減らない仕組みをどう作るか

こんにちは。全国で講演、セミナー研修など行っている

農業講演家の山下弘幸(やましたひろゆき)です。

農業歴35年。親元就農後、個人、法人の農業経営を経て

農業コンサルタントに転身し、

現在、新規農業者、若手農業者、企業農業参入支援などをしています。

具体的には、稼げる農業を実現する

”1歩先行く農業者”のオンラインコミュニティ

「農業ビジネススクール(農ビジ会)」を主催し

全国200名の農業者と毎月勉強会や情報交流を行っています。

また、定期的に更新しているyoutube(農テラスチャンネル)では

全国の農業者へ「農業経営・農業ビジネス」の最新情報をお届けしています。

 

さて、今回の山下弘幸農ビジコラムテーマは

「農家が減らない仕組みをどう作るか」

今回は、今話題の「お米の価格」についてお話しします。

というのも、最近よくこんな声を耳にするからです。

 

「え?せっかく値段上がったのに、またコメの値段下がるの?」

「え?なんで国は懸命に米の価格を下げようとしているの?」

「え?なんで農家のことは誰も言ってくれないの?」

 

需要と供給のバランスという市場原理でせっかく上がった米の価格は

備蓄米放出するという介入で強制的に価格形成がなされました。

 

この賛否はともかくとして本来コメの価格はいくらが適正なのか農家目線で

考えてみました。

 

背景を見てみましょう。

※データは農水省発表資料を参考にしています。

2024年現在の米の価格構造(1kgあたり)

農家の原価:約266円

※小規模農家と大規模農家では異なります

農家の卸価格:約330~406円

流通業者価格:約600~700円

店頭販売価格:約900円(=5kgで4,500円)

 

一見、農家も黒字に見えるけれど、実際に農家の手取りは、

消費者が払う金額の約40〜45%程度。

残りの半分以上は流通・小売の取り分です。

 

では2023年以前はどうだったか?

農家の原価:約251円

※小規模農家と大規模農家では異なります

農家の卸価格:約264円

店頭価格:約500円(=5kgで2,500円)

 

原価率にして60%以上。

飲食業やサプリ業界と比べると…

飲食業の原価率:30%程度

サプリ・化粧品:20%以下

小売業:70%前後(でも回転率でカバー)

このように農業は原価率60〜70%超で、粗利は10〜20%未満と

 

他の業界に比べて原価が高いビジネスなのです。

 

さて、昨今コメの値段論争が続いています。

総理大臣は各メディアの報道によると21日5kg3000円を目指すと言い、新内閣に抜擢された農水大臣は23日5kg2000円を実現できると表明した。

 

消費者の支出を圧迫するお米の価格は下がった方がいいのかもしれませんが、

私は、作り手側が儲からなければ

やがて本当にお米が手に入らなくなるのではと危惧しています。

 

そうなると、次は国民総農家となって自分で食べる分は自分で作ることになるでしょう。

最近企業がコメ作りを始めたり、脱サラしてコメ農家になりたい若者が増えているのも

その走りかもしれません。

 

しかし、農業はそう簡単なものじゃないのです。

 

特に大変なのは投資です。

農家はお米作りに際し巨額な投資をしています。

トラクター、田植え機、稲刈り機、その他諸々。家が1~2軒建つほどの投資をして

その支払いをし続けている農家がほとんどです。

 

もちろんそれでも続けている背景には補助金などの手当てがあるからですが、

これもまたやがて議論の的にされるかもしれません。

 

さて、米の適正価格についてですが

私が考える、理想の農家が農協やコメ問屋に渡す卸価格は400円/kgです。

 

これは店頭に並ぶお米の値段が約800円/kg~900円/kgになる計算です。

つまり農家の卸価格の2倍~2.5倍程度。

 

店頭で売られる時の販売価格は5kgで4000円~4500円が妥当ではないかと考えています。

 

つまり今の値段が基準だと思うのです。

 

とはいえ、さすがにお米の値段は上がりすぎとの声が大きすぎます。

それもそのはずです、

特にいまは食品やその他の生活必需品はすべて値上げりしています。

総務省が4月に発表した消費者物価指数は3年連続で2%を超えています。

特に食料は前年度に比べ5%上昇。特にコメ類は46%上昇しているのです。

 

だから「お米は安くて当たり前」という概念が消費者にも農家にもこびりついていて、

お米の値段が高く感じていらっしゃるのでしょう。

 

特に農家の心理として農家だけが“儲けすぎることを恐れている”背景があります。

儲けすぎる体験が少ない農家は儲け過ぎることに免疫がついていないのです。

 

本来はやっと農家は豊な暮らしができる水準になるのです。

だから堂々と儲かっていいんです。

豊かな暮らしをしていいんです。

自分の人生を謳歌していいんです。

つまり、

今までが安すぎたのであって、今の価格がちょうどいいんです。

 

だから、お米の値段が下がらないで欲しいと願っています。

お米1kgを400円で売る(卸す)ことで、農業をこれからも頑張ろう!って

未来への希望が湧き出るからです。

 

でも、そう、声を大にして叫んでみても、世間は認めてくれないのだろうなー。

だけど、農家が本来はこの値段が適正だ!と言わない限り、また時代や社会に流されて行くのだろうなー。

 

私の理想は、農家が安心して暮らせる農業の確立。

それは消費者が適正価格で買ってくれること。

 

そういう仕組みや文化が生まれれば、農家は農業を辞める必要がありません。

 

農家が農業を辞めなければ食料は安定します。

むしろ、「農家になりたい」って人が増えるかもしれません。

そういう未来が

担い手不足、耕作放棄地問題も、いっぺんに解消できるのです。